伊藤 薫教授 インタビュー
なるべく体験・経験したものから、通り一遍じゃない痛みを
───作詞家の仕事をするうえで、心がけていることやポリシーなどありましたら教えてください。
また、先生にとって作詞家とは、作詞を仕事にするとはどのようなことでしょうか。
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photo伊藤教授(以下「I」):難しい〜。
えーとね、ポリシーっていうのはね、
本当は全部自分で経験してから文字にしたいと思うんだけど、
でも歌謡曲系の割と年配の人用の楽曲の場合は、
男でも女性の歌詞を付ける女歌が多いので、そういう場合はやはり
僕は女性には絶対なれないので想像で書くしかないけれども、
でもやっぱり基本的にはなるべく自分で経験して。

雨の中、裸足で傘も差さないで飛び出した女の子の
気持ちを書きたいんだったら、やっぱり
裸足で雨の中に立ってみる…というようなね、
そういうことがやっぱり自分ではしたいなあと思ってる。

なるべく体験・経験したものから、通り一遍じゃない痛みだとかね、
悲しみだとか、ちょっとやっぱり見たのと違った、意外とその
真冬に雨に濡れたら、雨が暖かかったりするじゃないですか。
そういうような、本当のことをできれば伝えたいなと。
詞の上では思ってますけどね。

あともう1個なんだったっけ?作詞家の…?

───先生にとって作詞家とは、作詞を仕事にするとは、どのようなことでしょうか?…
I:うーん、そうだねー、ある日突然なったわけじゃないので、少しずつ…。
作詞家って自分で「はい私作詞家です」と言うよりは
作詞の仕事が入ってきて、それで後付けっていうかみんなが言ってくれて、
作詞家という肩書きになったような気がして。免許を持ってるわけでもないし
学校を出たわけでも僕はないので、作詞家というのはほかの人が見て
「最近色々書いてるから、あいつはきっと作詞を生業としてるやつだろうから
作詞家って呼ぼう」というところで呼んでもらってるような気がして。

僕自身はいわゆる本当に作詞だけの仕事とは思ってなくて。
まあ、「歌書き」っていうのかなあ…。
歌を書いてるっていうような印象の方がむしろ強くて。

それは詞も曲もやったり、たまには歌ったりとかいうことをしてるから
なのかもしれないけれども。
僕の仕事は作詞家です、というような印象は今のところはないなあ。

───歌書き…。
I:歌を書いてるっていう。歌書きの方が僕としては合ってるかもしれない。

───すごく素敵な言葉だと思いました。
I:いやいや…。なんかちょっと、歌謡曲チックかもしれないけれどね。
歌を書くっていうことは常に思ってることだから。

───ポエムとか詩っていうのとは違いますよね。
I:うん、僕たちのは歌の詞だからね。歌詞ですからね。
だからメロディーがあって、歌い手さんがいて、
アレンジャーがいて、楽器を演奏する人がいて、
その中に詞を書く人間もいてという。
オーケストラの中でいえば、ひとつのパーツなわけだからね。
だから自分だけで何かをやってもメロディーが付かなきゃ意味がないし
歌う人が顔を背けちゃったら、そうもいかないからね。

───全てが合わさって1つの楽曲ができるというか。
I:、と思うけどね。
最近は色々な歌の作り方だとか色んなものがあるから、
一概には言えないかもしれないけれどね。
僕なんかやっぱり、割と懐っこく作曲家と喋ったり、それこそ電話でお互い喋ったり、
「今度こういうのはどうかね」というようなことをお互いに言い合って、
でディレクターに相談して、ディレクターも交えてそれにまた編曲家も入れて、
「じゃもうド頭ちょっとなんか、ひとつダーンとすごく驚かして、
花火を上げてからすーっといくようにしようか」みたいなことで、
みんなで作った感じが僕は好きなんでね。

だから、メールで送ってレコーディングしてもCDになっても全然連絡がなくて
あれボツになっちゃったかな…と思ってると、
どっかでふっと自分の詞が有線から流れてきて、
なんだあれ、成立したの、みたいなね、
そういうのはあんまり、仕事としては面白くないかなっていう。
みんなでこうやってるほうがね、楽しいけどね。

───電話でアイディアを出し合ったりとか…
I:本来やっぱり詞と曲っていうのは全く別物だから、
相手の話も聞かないと片っぽばっかりで突っ走っちゃうと
「あそこにもう1拍あれば、こんなにいい詞が喋り言葉でできたのに、
あの1拍がな…」と思うんだったら、もうメロディーメーカーに電話して、
「すいません、あれ、1拍を2拍に分けてください」って言ったら、
もう99%OKって言うじゃない。

「いや、すいません、そこは四分音符1個にしてください」
っていうやつはあんまり居ないからね。
おいらだって、もう本当全然
「ああ、いいっすよいいっすよ、なんならこっちも2拍に分けてもいいですよ」
ぐらいですからね。僕は。

だからその辺はお互いに融通を付け合って、
いいものができれば一番いいわけだからね。

───電話ではなくて、同じ場所に皆さんで顔をそろえて、その場で作り上げる ことはありますか?
I:あのね、それはね結構ストレスになることがあるんだよね。
その日調子のいいやつはどんどんどんどん出てくるけど
特にピアノなんかって、メロディーっていうのは割とね、
いくらでも出てくるの。ある種。
「上行く?それとも下から行く?」とか
「じゃ真ん中から行って最後上行く?」
とこう色々やってけるんだけども、詞ってそうもいかないじゃないですか。
大体詞の人はね、煮詰まってあんまりいい気持ちがない。
メロディの場合「カカカカ」(音程下から上)っていうのはやめて
「カカカカ」(音程上から下)にしましょう、
って言うと、「ああ、いいね。それ」って言っても、
こっちはそれに「・・・ちょっと待って前はああだったんだから、ちょっと前まで戻って・・・
女の子がここで喋るのはおかしいなあ」
なんていうことを考えていくと、詞のほうはきりがなく迷路にはまってしまうので、
あまり作詞家と作曲家が一堂に集まると…
最後の微調整はいいけれども、基本的なところからスタートするのは
ちょっとね無理があるかな、って思うな。

───別々に作業をして「ここは」っていうところを、連絡したり調整したりっていう。
I:そう。
「サビもう1回繰り返してもいいですかね」とか、
「サビの前2小節なんだけど、これ1小節にしてもらってすぐサビに行くと、
そっちの方が僕としては切り口のいい歌詞が乗ると思うんだけどな」、
なんていうことをメロディーの人に言って、
それをまたディレクターにジャッジしてもらって、
「薫ちゃん、これ2小節でも大丈夫大丈夫。」
僕がそういう風に思ってるだけだから「大丈夫だよ」、
ってディレクターが言って、でレコーディングしてみると
「本当だ、やっぱりこれ2小節で良かった。
1小節だったらむしろ、そっけなくなっちゃったかもしれないですね」
なんていうこともあるからね。



───伊藤先生が作詞された曲の中で思い出深い作品と、エピソードがあれば教えて下さい。動画を見る

I:自分の子供みたいなもんだから、可愛いっちゃ可愛いし覚えてるんだけど、
やっぱり一番最初にベストテンとかに出て、有線とかでいっぱい流れてくれた
水越けいこさんの「頬にキスして」って歌があって、それがCMになったりして。
僕の最初のヒット曲だったので、今でも詩もよく覚えてるし、
ディレクターに絞られた思い出もとてもあるし、
書き足したり、削ったりということもいっぱいあったので、
「頬にキスして」という歌は覚えてる。
30年ちかく前だと思うんだけど、20代の前の方だったので。

───作品としても、最初に出来た作品という…
I:そうですね、それでいろんなディレクターさんと知り合いになったり、
レコード会社の仲間が出来たり。それが一番思い出になるかな。

LOVE IS OVERは、お世話になった女性達への恩返し
───伊藤先生の作品と言えば、やっぱり欧陽菲菲さんの「LOVE IS OVER」があるかと思うんですが、
もしよろしければ作詞した際のエピソードなどありましたら、教えていただけますか。

I:
22〜23(歳)だったんだね、書いたのが。
よく遊んで、お酒飲んだりご飯食べたり、ギターをしょって遊んでるときに、
色んな人にお世話になってね。
「最近、ご飯おいしいの食べてないな」っていうと、
割と色んな所でご馳走になったり。
僕わりと、おいしそうに物を食べるんでね、“おごり甲斐がある”
なんて言われてね。色んな人にご馳走になって。

その頃、19〜20(歳)ぐらいだから、お姉さん方が色々と
ご飯食べさせてくれたり。それこそ、泊めてくれたりして。
所謂、水商売をしてる女性達に恩返しをね、出来たらな〜と。
もし、歌を書いて誰かの歌を出せるようになったら、
この人達のことを歌にして、ヒットさせて恩返ししたいな〜って、
ずっと思ってた。

ちょうど、欧陽菲菲さんの仕事がきて、
年格好も僕より上だし、なんとなくあの人だったら、
食べられないバンドマンに「うちへ来て、ご飯食べてきな」って
言いそうだなって感じがとてもして、
この思いを欧陽菲菲さんに歌ってもらいたいなあっと思って。

終わりとしては悲しいけれども、きっと僕の事を送り出してくれる女性が、
どこかにいるんじゃないかなと思って…。
自分で歌うつもりもあったんですけどね。

結構前の事だから、インタビューいっぱい受けてる内に、
若干作り出してることもあるかもしれないけど。
年上の女性に対する恩返しっていう所が、
歌にはこもってると思うんですけどね。

後になってからね、あれは私の事を歌ってくれてるんだって人がいてくれてね。
その中の何人かは、そうかな〜と思って。
でも、お店訪ねても、ああいう人達は1つの所にはいないですからね。
会えなかったけど、色々お世話になったからな…。

そうやって送られたいな、って。
男の勝手って言うか。
結局、男はフラれるわけなんですけど、
フラれるならそうやってフラれるのもいいかななんて、ちょっと思ってる。

───印象的なフレーズとかはありますか。
I:「悲しいけれど 終わりにしよう きりがないから」
はよく出たなあと。自分でも自然にすーっと出る時は、出るもんだなあと。
頭で考えたら、もうちょっとキレイな言葉になるかなと思うんですけど。

「あなた」って言ってたのが最後「あんた」になるような、
作り方としてはキレイじゃないけれど、
なんかそのパワーとかエネルギーみたいなのが伝わったのかな〜と。
今だったらきっと、もうちょっとキレイには書くけれども、
エネルギーには乏しかったかなと、反省として思うけれど、
これぐらいに無茶に書けたらいいなと今でも思う。

体裁をあんまり考えないで書けた頃だと思うんだ。
限りなく、10代に近い頃ですから。

───作詞のポリシーとして、経験してから文字にしたいと言うことですが、
やっぱり実体験から出来た詩が多いというか…

I:そうは言ってられないからね。想像で書くことも結構あるけれども。
自分の中では、経験してから文字にしたいと思ってますけど。

よく言うように、恋はね、絶対恋愛から離れてはいけないというようなね。
常に恋焦がれたり、悲しい思いをしたりというのは、詩を書く人には必要かもしれないですね。
歌のほとんどが恋愛詩ですものね。だから…やっぱり恋のエネルギーってすごいじゃないですか。
それをやっぱり、忘れずにしてないと、歌はね、書けないかなと思うけどね…。

それは片思いでも、プラトニックでも全然いいんだけどね。
ただ、恋をする感覚みたいなものを無くしちゃうと、なかなかいい詩は書けないんじゃないかな。

───作詞スクールの生徒さんにも、是非恋を…
I:そうね、恋はもう絶対した方が。
やっぱり、人を好きになる事はものすごいことですから、だから、それは必要だと思うね。
男性も女性も。うん。

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