伊藤 薫教授 インタビュー

「ああ、自分の思ってたことに賛同があったんだ!」という、喜び
───作詞家のお仕事をされていて、良かったなと思うことはありますか?動画を見る
伊藤教授(以下「I」):ああ──。
そうねえ…まあ、それはやっぱり自分の感性を表に出すっていうのは
とても快感であって、でなおかつ、それがまあある程度ヒットしたり、
CDの反響なんかがあると、
「ああ、自分の思ってたことに賛同があったんだ」っていうか、
たくさんの人が手を挙げてくれて…
“ああ、ぼくも同じ同じ!”“私もそう!!”って、
言ってくれる人が、こういっぱいいるような…。
支持されてるというような、喜びは、あるかなあ。

ただ、ね。あの…当然売れない楽曲のほうが遥かに多いわけで…。
売れない楽曲がみんな、あの…悪い作品だったとは思いたくなくて。
けっこう売れなくても、良い楽曲がいっぱいあったけれども。
ただやっぱり、作詞家として、良かったなと思うのは、
やっぱり、ヒットした作品を、みんなが支持してくれる喜び。かなあ…

あとは、作詞家に付随してエッセイとか、テレビに出たりとかいうね、
自分の意見を言うような、機会があって。
これがまたね、結構楽しいのよ。
本業も楽しいけれども、あの…それこそ“食べ歩き”みたいな、
そういうことまでね。ええ…

“今回はこの作詞・作曲のこの人に、ここに行ってもらいました”
なんていって、旅の番組に出させてもらったりとか、
海外に行かせてもらったりする。
それもね、あの…楽しい。かな。今、とっても。
だから、そういうのでも、作詞家の仕事を選んで良かったかなとは、
思うけどね──。
───作家のお仕事から、また広がって、いろんなお仕事に繋がっていく──。
I:うんうん、そうそうそうそう。
だから海外に行って、作詞家の目でモノを語るっつうのは、
あの、楽しいよ。意外と。

うん。ただ…ねえ、あの…いろんな物を見たり、
おいしいおいしいと言って食べるんではなく。
やっぱり、その外国の風景とか、それを食べてる外国の人たちの表情とかで、
それを詞にどうやって活かそうかな?
と思うことも、また楽しいし、うん。
詞を書く目で物を見る楽しみっつうのはね、とてもある。

───“詞を書く目で、物を見る楽しみ”。…それをテレビで、お話されたりとか。
I:そうそうそう。
それはたぶん、あの…普通の食料…食べるものの評論家の方とは
やっぱ違った、ものの見方が、僕たちは出来るかも知れないよね。
いわゆる物理的なものではなくて、感性のものだから。

音楽家…音楽をやる人間から、
見た…景色だとか、風景っていうのはまた…
たとえばもう、ほんとに風の流れてるのっていうのは、
あの…我々にしか見えない、のかも知れないもんね。

音楽をやってると、風の音とかで…
あの、僕なんかキーボードとかで、音を入れるときに、
まったくの雑音がないとむしろ落ち着かなくて。
ちょっとこう雑音をね、シュウ…ッていうなんかこう、風の音かなんかを
入れちゃおう、っていうようなことがあるのね。

風っていうのはね、感じるんですよ。見られるし。
そういうようなことっつうのは、やっぱり、もしかすると、
こういう…あんまり、あの、深いことを考えない、
オイラみたいに音楽のことずうっと考えてる人間には、
見えたり感じられたりするのかな?

っと、それをテレビとかなんかで言うと、
その中に、賛同してくれる人がいて、
「ああ、そういう見方もあるのか」というような。…ね。

だから季節とかのその、変わり目っていうのも、
えー…普段暮らしてるよりも、歌の世界のほうがはっきりと、
分かるような感じもするし。

…作詞家の目で見る、ことっていうのもやっぱり大事だし、
いろんな人がそれを見て、また賛同してくれることもあるのでネ。
この仕事の、楽しみのひとつではある。はい。
旅に行ったり、いろんなものを見たりするもんね。うん。

作詞家の目で見れば、止まった時間が動き出す
───たとえば、風を見たり、感じたりとか…
photoI:うんうんうんうん…そうだね。
やっぱり、歌にしようと思って、見てることが多いじゃないですか。
だから、その…まあ、雪がかぶってない山でも、
作詞家の目で見れば…雪が、見えたりとか。

それこそ、晴れてても、
「ああ、ここも時雨(しぐれ)たら…いいだろうな」と思えば、
僕には、時雨て見えるというか。

だからそういう物の眺め方って、やっぱり出来るから…
今はそう、こう夏に枯れてて、川に水がなくても、
「この歌が発売する11月頃には、きっと水があるだろうな」
と思ったら、その目で、僕たちは見られるわけで。
こういう風に川が流れたら、きっとあの木も水に浸るんだろうな…
というような目で見られるから。

割と自在に…詞を書く人って、割と自在じゃないですか。
想像も含めて。
そういう意味では他の方よりも、あの…
見てる物の、プラスアルファがちょっと多いのかも知れない。
だからそういう目で見ると、楽しいよね。うん。

だって、たとえば──、部屋見たってさ、
そこに、どういう人たちが住んでて、過去にどういう二人がそこに住んでて、
それを先代の人たちは、まあ、きっと昭和20年生まれぐらいの二人が
住んでたんだろうなあ、て思ったりさ。
そうか、その頃はまだか、電車が地下じゃなくてここを走ってたということは…、
なんていうことを見ると、小さな四畳半見ても、
もう…すんごく膨らむの。物語が。

で、昔電車が走ってた、線路の跡なんかでも。
ただ単に、廃線のあととして僕たちは見なくて、
ここに電車が走ってて、電車が走ってたということは、
そこに駅があって、別れた二人があったり。

20年振りに帰ってきた、お父さんと息子の出会いがあったり…
帰ってきたら、お母さんがもう亡くなってて、
会えなかった人もいるのかなあ、とか。

いろいろ、思える。
これはやっぱり、あの…詞を書く人の目なのかな、と。うん。

───何かひとつのものを見ても、そこから…なんでしょう、そこが季節を変えてみたりとか、今はいない人が見えたりとか…。
I:そうそうそうそう…。

───(ため息)深いですね…。う〜ん。
作詞家さんの目…、なんですね。




なるべく楽しい事ないかなって思って暮らしてるんだね
───先生のオフの過ごし方や、1日のスケジュールなどを、よろしければ教えて下さい。動画を見る

I:大体、夕方飲み始めますね。お酒大好きでね。
同級生が近所に何人もいるので、今日も午前中、
「あさりを手に入れたので、夜炙るから来い」とメールがあったんで。
まあ、そういう友達と遊んでますね。

うち、海が近いので、6〜7月になれば釣りをしながら焼いたりとか。
友達のうちの庭でバーベキューやったりとか。

オフの時は、だら〜って過ごしちゃうね。ただ、ペンと紙は必ず持って。
小学生の子がしゃべってても、いいフレーズってのはあるのよ。
駅で、さよならって手を振ってる二人にも、いい所がたまにあるのね。
その時書き留めるために、紙とペンは持ってるけれども。

そういうことは忘れて、友達と飲み食べだね〜。

───楽しそうですね。
I:だって、そんなに目くじら立てる仕事じゃないからさ。
あんまり切羽詰まっちゃうと、
歌ってロマンとか、悲しみとか、喜び、幸せとか…そんなにシビアじゃないので、
なるべく楽しい事ないかなって思って暮らしてるんだね。
夏には夏の、冬には冬の、遊び方があるしね。
そういう事ばっかり考えてる。
しっかりした大人にならなきゃいけなんだけどな。

───オフの時にも、フレーズを思いついたり、書き留めたりと言うことですが、
お仕事の日は、時間を区切っていたりされるのですか。

I:基本的に1日オフってのはないね。
それこそパソコンを使った楽曲の添削の仕事だとかね。
必ず何時間かは仕事があるし、歌を書くことがないって事は、まずない。

必ず、何曲かは抱えてるのでそれをやって。
僕は仕事を朝方に変えたので、7時半くらいに起きてご飯食べる前に、
少し色々書いたり。延びればそのままずっと書いちゃったり。

「明日1日オフ」ってのは、無理やり作らないと無いから、
その時はなんにもしないで、ずっと外にでっぱなしとかあるけどね。
常に、必ず頭の中には仕事のことがある、これは仕方ないね。

───いつ、そういう場面に出会うかわからないですものね。
I:そうなの!
今すぐ使えなくてもね、このシチュエーションどっかで使えると思えば、
書き溜めておいて、ストックしておけばどこかで使えると…



作詞家を目指す皆さんへ、教授からのメッセージ
───作詞家を目指すみなさんに、アドバイスやメッセージがありましたら、お願いします。動画を見る
I:さっきも言いましたが、色んな経験をたくさんして、
やっぱり普通の人が見る所じゃない、
ちょっと斜めからだったり、下からだったり。
夏にすることを冬に、冬にすることを夏にしたり。
他の人と違った物の見方を、僕は勧めます。

それと、やっぱり流行歌ですから、
世の中の流れと離れてしまうといけないので、
なるべくアンテナは四方八方にめぐらせて、
今の人達はどういう事を考えて、
どういうものを嫌だと思ったり、いいと思ったりするか
っていうその尺度…、
みんなが思ってる、「思いの尺度」みたいなのを
常に保ってるといいかな、と思います。

それと、既成概念にとらわれないで、
ルールとかセオリーとかぎちぎちにありますが、
やはりその中で仕事をしてしまうと、
すでに売れてる作詞家さんには適わないと思うのです。
仕事の量、経験から言って。

これから出てくる人達の詩というのは、
どこか乱暴であったり、無茶であったり、荒唐無稽だったりという所も
ないといけないわけで。
ディレクターさんや、作曲家だとか、色んな人の意見を聞きながら、
流行歌も聴きながら、「自分の物はこれだ!」というポリシーを
1つ持って突き進む
のが一番かな。

でも作詞家になるためには、色んな道があると思うの。
色んな方法から、童話の作家さんがなったり、写真家の人がなったり…。
「ここだけ勉強してれば作詞家になれる」ということではなく、
すごい迷い道、寄り道とか、
色んな所から作詞家に向かう
のがいいかなと思います。

作詞家は楽しいですからね。こっち来る事をお勧めします。
若い人が入ってくると、業界も活性化しますから是非、
たくさんの方が作詞家になってくれることを、僕は期待します。

その時は、僕に曲を書かせて下さい。よろしくお願いします。


───今日は、本当にどうもありがとうございました。

(2008年5月7日 都内某所にて)

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