───先生の作詞された作品は本当に沢山あると思うんですけど、
その中で特に思い出深い作品ですとか、そちらのエピソードがありましたら
教えていただけますか?
松本教授(以下「M」):
やっぱり、人によってちがうんですけれど、
売れてる歌っていうのはみんなそれなりの思い出がありますよ。1曲1曲。
「ガラス越しに消えた夏」の時には、スタジオで、タイトルがどうしても決まらなくて
スタジオで、電話帳を重ねて、椅子にして一人で考えてましたね。
その月が12月…20日?だったかな・・・違ったっけな。
その年はね、すごく忙しくてなんせ1日5曲作ってましたからね。
忙しいときは。
で5曲作って、スタジオにずっと入って、
かならず毎日どこかのスタジオで僕の歌をレコーディングしてるんですね。
12月31日もスタジオで、みんな、ほんとに、吉川君達みんな集まって、
そこで鍋やってみんなで年越ししたりとかね。
そういうこともありますし。面白いですね。
───今、スタジオで作詞されたということもお聞きしましたけど、
ということは本当に出来たての歌詞が歌われているということですよね。
M:
(南)こうせつさんは、
「一起さん、今日やりましょうか」ってキャピタル東京から電話があって、
「スイートをとってるから」って言って。
こうせつさんがギターを弾く「ジャンジャンジャンジャン」で、
「ジャンジャンジャンジャン・・・」
ちょっとまってこれで ジャンジャンジャンジャン・・・
あーいい曲できたなあ、あ、これいいなあ。
僕、バーッと文字書いて、詞作っていくんですよ。
それで詞と曲ができちゃう。大好きなんです。
それで仕事終わっちゃいますから。
その時、キャピタル東京で蚊にさされましてね、何回かのうち1回。ものすごく腫れた。
よく覚えてますけど…
何回かそういうやり方をやってましたね、はい。
───その場で作られるというのは、お仕事場でいつも作られるのとは違って・・・
M:
楽ですね。僕は。
詞を自分で作ってるんだったら、「このフレーズちょっとまずいかな」とかって
迷いますけど、歌う本人、作曲する本人が目の前にいますから、
その場でどんどん決定してくわけですよ。
決定して。で、1曲終わったら、ラスト1曲終わった、これでお終い、
ってなるじゃないですか。すごい楽ですね。
おもしろいですね、ライブって。
作詞家・・・、南こうせつさんとかそういう人達は、
みんなライブで、自分でお客さんの前でライブをやってるじゃないですか。
作詞はそういう風にできないですから、そういうライブ、
僕はそのライブ活動というのは、すごい楽しいですね。
お客がいないライブ活動ですね、作詞家の。
───もちろん、その場で歌詞もどんどん変わっていくんでしょうし、
その場でどんどん曲も変わっていったりするんですか?
M:
しますします。
僕、レコーディングってあんまり好きじゃないんですよ。
ほとんどレコーディングに行かないんですね。
なんでかって言ったら、レコーディング、詞直したくなるんですよ。その場で。
そうすると、一生懸命覚えてる歌手の人が困るわけですよね。
それだから やっぱり行かないです。
直したくなっちゃうんですよ、どんどんどんどん。
───その歌手の方の歌い方を聴いたり・・・
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M:
直したくなるんですね。
それとえっと、母音は必ず、一番最初の出だしの言葉は、
母音が「あ」から始まってますから。
かならず。
「忘れかけた日々」みたいな文ですね?
「やがて夜があけ」、「や」
「まるで別人のプロポーション」
みんなね、「あ」行なんです。
なんでかっていうと、歌詞が歌いやすいから。
「あ」っていうのは口が大きく開きますから。声が出やすいんです。
でも「う」、美しいとかなんとかっていうと、
「う」ですから、
「う」ってこんな口よりも「あ」って、
母音が「あ」の方が歌手の人が歌いやすいですから。
声がどーんと出せるんですね。それは意識してますね。
うたまっぷの作詞コーナーやってる人も、
「歌うこと」を意識してやった方が。
僕らが作る詞を作詞家が作った詞を歌い手が歌うわけですから、
その歌い手がいかに表現豊かに歌えるかが大事ですよね。
特にいっぱい声を出してもらうためには、母音が「あ」「な」とかっていうのは
声が出るってことなんですね。はい。
まさに、共同作業ってことですからね。
───歌い手さんがいての歌詞、というか。ポエムとはまた違いますもんね。
M:
ポエム、そうです。ポエムっていうのは、
グラフィックでこう、できあがったらおしまいですよね。
あとはレイアウトをどう見せるか。
でも歌っていうのは、どんなレイアウトが悪くたって、
歌ったら、一つの楽曲として空気感が生まれるものですから、
とりあえず、歌を歌う人がいかにそれをきちんと理解して歌いやすく、
いい歌を歌えるかが大事なんですよ。
そのためにはできるだけ作詞家も、歌いやすい詞を書くという。
たとえば、「うそでしょうね」とかなんか…わかんないけど、
あんまり難しい小さい口しか開けられないような
言葉だけだったら、歌う人も困っちゃうんですよね。
だからできるだけ、歌う人が歌いやすい歌。
っていうのがいい詞ですね。これはもう、イメージが湧きますっていう詞を作ってあげることが、
歌う人が気持ちを、うわっとこう、高揚させることができるんです。
───歌いやすく、かつ詞としてみたときに良いっていうのがいいんでしょうか。
M:
ですから僕ねえ、原稿用紙をこうぱっと見た瞬間に、
いいか悪いか一瞬で見えますね。人が作った歌…
まず文字の配列とかレイアウトっていうあの、すごくこだわってるんですね。
その、漢字とかカタカナとか、ひらがなのバランス感っていうのが。
でタイトルは、やっぱり原稿用紙に書いた瞬間に、
プリントアウトした時に綺麗なひとつの形がある詞はいいですよ。
ですから、ぱっと見せられたときに、ぱっと見た瞬間に
「お、いいんじゃない」って言っちゃいますね。はい。
───ぱっと見て。
M:
詞を読まなくても。
なんかその、できあがった文字の空気感っていうのが
伝わってくる瞬間にいいとか悪いとか。
間違ってるかもわかんないですね。
だけど僕は、多分僕の感覚で、いい詞だったらわかっちゃいますね。
そういうもんですよ。きっと。多分。
初めて会った人と・・・なんかこうオーラがあって、
うわっこの人いいな、って思った瞬間に、
もう何にも何が悪く?てもOKっていうのがあるじゃないですか。
それと同じですよ。
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